「中途採用比率の公表義務化」を徹底解説

「中途採用比率の公表義務化」を徹底解説

2021年4月より始まった中途採用比率の公表義務化とは、企業にどのような影響をもたらすのか、対象企業はどこなのか、公表しない場合は罰則があるのかなど、気になるポイントが多いでしょう。本記事では経営者・人事担当者が把握しておきたい中途採用比率の公表義務化の知識をまとめました。

「中途採用比率の公表義務化」とは?

中途採用比率の公表義務化とは、正規雇用者の採用者数に占める中途採用者の割合を定期的に公表しなければならないというもので、2021年4月(令和3年4月)に労働施策総合推進法が施行され、それに伴い公表が義務化されました。

なぜ中途採用比率を公表するのか

労働施策総合推進法とは1966年に制定された雇用対策法を2018年に改正した法律であり、次のようなことを目的としています。

  • 労働に関する必要な政策を講ずる
  • 労働市場の機能が適切に発揮される
  • 労働者ごとの事情に応じて雇用の安定を目指す
  • 職業生活の充実と労働生産性の向上
  • 労働者が能力を有効に発揮する
  • 職業の安定と経済的社会的地位を向上する
  • 経済と社会の発展
  • 完全雇用の達成

参考:e-GOV法令検索 労働施策総合推進法

こうした方向性から、中途採用比率の公表義務化は「労働者の主体的なキャリア形成のサポート」「職業生活の更なる充実や再チャレンジ可能な社会」「労働者と企業のミスマッチを防ぐ」を理由として施行されています。

公表の対象企業

中途採用比率の公表義務化の対象となる企業は「常時雇用する労働者が301人以上の企業」です。

常時雇用する労働者とは、雇用形態を問わず「期間の定めなく雇用されている者」「過去1年以上引き続き雇用されている者」「1年以上引き続き雇用すると見込まれる者」のいずれかを満たす労働者のことです。

上記に該当する企業はおおむね年に1回、自社ホームページにて公表します。自社ホームページがない企業は厚生労働省が開設する職場情報総合サイト「しょくばらぼ」を利用することも可能です。またその他の方法として、事務所への掲示や書類の備え付けなどの方法も可とされています。いずれにしても求職者がいつでも容易に閲覧できる方法での公表が必要となります。

参考:厚生労働省 職場情報総合サイト「しょくばらぼ

「中途採用比率の公表義務化」によって起こる企業の変化

中途採用比率を公表することで、企業にはどのような変化がるのでしょうか?「プラスに働く要素」と「課題と考えられる要素」2つの視点から解説します。

プラスに働く要素

中途採用比率の高い企業では、中途採用者の積極採用をアピールできます。多くの求職者が新しい職場に求めているであろう要素の1つが「心理的安全性」です。

大半の求職者は職場に早く馴染めるか、人間関係の問題はないかなどの不安を抱えています。中途採用者の多い職場に対しては「同じような同僚がたくさん働いている」や「中途採用者に対するフォローがしっかりしている」など心理的安全性を感じやすいため、求職者の目に留まりやすくなります。

結果として優秀な人材を多く確保でき、求職者と企業のミスマッチを防ぐ効果も期待できます。。ミスマッチがなければ中途採用者の早期退職もなく、採用コストが無駄になりません。

課題と考えられる要素

中途採用をあまり行っていない企業にとっては、中途採用比率を公表することで、中途採用者へ少なからず不安な印象を与える可能性があります。中途採用者が少ないということは、転職者の受け入れ体制が整っていないのではないか、コミュニティに上手く馴染めるだろうかと、転職時には誰しもが抱える不安をより感じやすくなるためです。そのためそういった不安を解消するためには、中途採用比率の公表とは別で、従業員の平均就業年数や定着率などといった数値を把握しておく必要もでてきます。

また従業員数301名以上の企業となると毎年新卒採用者や中途採用者の入社、また既存社員の退社と、規模が大きくなるほど人員の流れの正確な情報を管理する作業工数がかかってきます。

企業(主に人事担当者)としては従来の業務に加えて中途採用比率の公表義務化の対応負担が増えてしまうことも大きな課題の一つです。情報収集フローやマニュアルを整備し、毎年1回結成される専門組織を作るなどの対応が必要になります。

「中途採用比率の公表義務化」に対応しないと罰則はあるのか?

中途採用比率の公表義務化に対応しなかった場合でも、現段階で企業に対する法的な罰則はありません。したがって「対応しない」という選択肢も残されています。

対応しない場合は「業務負担が増えるから」など単純な理由ではなく、中途採用比率の公表することのメリット・デメリットを整理し、自社にとって必要か不要かを判断する必要があります。

ただし、中途採用比率の公表義務化はあくまでも労働者のキャリア形成サポートや職業生活の充実を理由として開始したものです。企業本位な考え方ではなく、「日本経済全体に貢献するためにやるべきこと」と考えての実施をお勧めします。 また、今後は対応しなかった企業に対して何らかの罰則が設けられる可能性も考えられます。日頃から政府のガイドラインや勧告をチェックし、知らずのうちに問題が起きないように対策しましょう。

まとめ

労働施策総合推進法では中途採用比率の公表義務化に限らず、労働者の職業生活充実化のためにさまざまな法令が用意されています。2022年4月から中小企業でも義務化される「パワハラ防止対策」もその1つですね。

中途採用比率の公表義務化のように、1つひとつの法令には施行する社会的意義と企業的意義があります。まずは企業的意義を整理し、法令に準拠する姿勢を固めましょう。さらに社会的意義にも目を向けて、すべての企業が日本経済に貢献する意識を持っていきましょう。