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会社の売上に繋がる研究には、歩み寄る姿勢やコミュニケーション能力が必要

2020/03/12
株式会社吉野家ホールディングス
執行役員
グループ商品本部 副本部長
素材開発部 部長
辻智子さん

がっつり肉を食べたい人が客層としてイメージされる吉野家。そのイメージを覆す新メニューとして2019年5月に登場したのが、プライベートジムのRIZAP株式会社とのコラボレーションメニュー「ライザップ牛サラダ」です。

この開発に携わったのが、グループ商品本部副本部長辻智子さんが部長を務める素材開発部。「健康」という新たな軸を作ろうとしている吉野家ホールディングスで、機能性表示食品や特定保健用食品などの商品開発に携わっています。

これまでの経歴から得た気付き、共に働くメンバーに求めることについてお聞きしました。

──辻さんが所属されている素材開発部の仕事についてお聞かせください。

辻さん(以下、辻):健康を意識したメニューの開発を行っています。機能性表示食品「サラ牛」など、これまで機能性表示食品を未販売のものを含め11製品開発しました。店舗でお出ししているメニューでは、RIZAPとコラボした「ライザップ牛サラダ」の開発にも携わりました。現在の機能性表示食品制度は、外食店舗で提供するメニューは、機能性表示食品を謳うことが出来ないため、通信販売やドラッグストアなどの店舗販売用のみとなっています。

──健康志向のメニュー開発を行っているのはなぜでしょうか。

辻:吉野家ホールディングス代表であり吉野家の社長である河村社長が、「健康」を軸に差別化をすることを目指しているのが大きな理由ですね。これからの時代、「これまで通り」をずっと続けていては生き残れないという危機感があるんです。新たなお客様の獲得、これまで吉野家を支持してきてくださった方が健康志向にシフトした際のことなどを考えての動きだと捉えています。

──辻さん自身は、これまで健康に関連する開発を中心に行ってきたのですか?

辻:いえ、私が最初に携わったのは味の素中央研究所での医薬シーズ探索と呼ばれる、新たな化合物を見つけて医薬品に展開する仕事を行っていました。その後、結婚を経て、夫がアメリカへ社費留学するのに同行し、味の素を退職し、現地の大学に博士研究員として勤務しました。帰国後は、相模中央化学所に入りました。

──相模中央研究所ではどういった仕事をされていたのでしょうか。

辻:応用的な研究を多く行っている研究所で、ここでも医薬品シーズ探索を行っていました。この研究所は戦後自社研究所をもてなかった多数の日本企業が賛助会社となって寄付をして設立した、いわば日本企業の競争力を高めるための研究所でしたね。

基本予算は当時の所長の農薬に関する特許のロイヤルティと寄付金。研究を続けるためにも、企業に興味を持ってもらえるよう、「企業の売り上げに貢献できる研究」を進める必要がありました。企業の売り上げに貢献できる研究、つまりお金になる研究がいかに重要かを、身をもって知った経験でした。自分の研究を宣伝することも重要であることもここで学びました。

──自身の興味だけを突き詰めるのでは、仕事にならないケースもあるためですね。

辻:企業の研究所に勤める人間にとっては大切なことですね。その後、各社が独自研究所を持つ時代に変わり、この研究所も役割を終えたような気がして、私も次の職場、ファンケルに転職を果たしました。

当時のファンケルはサプリメント開発が軌道に乗りつつある時期で、新研究所が立ち上がった時期でした。日本ではサプリメントがまだまだ怪しいものだった時代ですね。そのため、エビデンスを確立する必要があったんです。臨床を踏まえて開発を行うことで、サプリメントがまっとうなものであると認知されていきました。

──今では、多くの会社がサプリメントを手掛けています。

辻:それはこの頃から、サプリメントの有効性を臨床データで証明するということが業界内で浸透し、研究開発費と人材を有する企業でなければ生き残れなくなったからだといえます。自然淘汰が起こったと思います。1999年に入社して9年間勤めましたが、私が研究所長になってから、大学との共同研究を推進し、自分たちで処方開発し、有効性試験を行い、論文を書いたり学会発表するようになったんです。それまでは、アメリカで開発されヒットしている処方を参考にしていち早く商品化するために、原料の粉末を製剤化して、色々なサプリメント形状にして製品化したところで完了でした。

──その後、キャリアはどのように変化したのでしょうか。

辻:ファンケルの社内体制の変化等もあり、ご縁があり日本水産に転職しました。

──研究内容は何だったのでしょうか。

辻:私が所属していたのはファンケミカル事業部直結の研究所として新設されたばかりの生活機能科学研究所でした。ニッスイの主要製品EPAの機能性研究や、クリルオイル、グルコサミン、キチン・キトサンなどの用途拡大のために新規機能を探索していました。

最後に携わったのは、魚のタンパク質の機能性研究です。研究自体は順調でしたが、社内でのアピールが不十分で、結果を商品に結び付けるところまでを在籍中に果たせませんでした。売上貢献にいたらなかったことには悔しさが残りました。

そのような中、ヘッドハンティングを受けて吉野家ホールディングスに転職し、今に至っています。

──吉野家ホールディングスのお話が来たときには、どう感じられたのでしょうか。

辻:「吉野家ホールディングスで私が一体何をするんですか?」と思いました。飯盛りはできないですよ、と(笑)。そこで、「健康で差別化したいと思っている」という話を聞き、試しに入ってみた、というわけです。結局、そうこうしているうちに5年が経ってしまいました(笑)。

現場を知ることが、より良い研究開発に繋がる。

──素材開発部は、何人が所属しているのでしょうか。

辻:今は産休中の人も含めて7人ですね。

──女性の方が多いのでしょうか。

辻:現在は女性が私を含めて4名ですから、女性の方がちょっと多いですね。

──どのように研究を進められているのでしょうか。

辻:1つの事をチームで行うわけではなく、個々によって異なるテーマを持っていますね。女性4名は専門分野が近いので、子育てなどで時間に制約があるときなど協力し合うことも出来ます。単独で全てをこなしている人もいます。

チームでひとつの研究を行わないのは、部署のミッションが健康分野の独自素材開発だからです。未知数のことに種まきをし、挑戦しているので、何が商品として生き残れるのかはわからないんですよ。そのため、みんなで切り開きながら、どれかが将来に繋がればいいという気持ちで取り組んでいます。

──「企業の売り上げに貢献する研究」の重要さが、ここにも繋がるわけですね。

辻:ええ。また、そもそも吉野家ホールディングスでは研究者であっても研究だけをしていればいいわけではないんです。新入社員はもちろん、中途採用の本社採用でも全社員が、月に1、2回は店舗応援の制度があるんですよ。

──研究者と接客業、まったく畑が異なりますよね。

辻:そうですね。なので、基本的に私たちは店舗では全然役に立てないですよ。むしろ邪魔になっている可能性もあると思います(笑)。

ただ、この経験は決して無駄ではないんです。店舗で実際にお客様の表情や注文の様子を見る事で、初めて提案できるメニューもありますし、見えてくる改善策もあります。売れると思っていたメニューがあまり売れていないことにも気付けるでしょう。現場を知ることは、研究者にとっても必要なことなんです。

他部署との関係性構築が、売上への道筋になる

──これから、素材開発部自体に拡大の予定はあるのでしょうか。

辻:現状では考えていません。というのも、まずは開発した商品をいかに売っていくのかということについて、社内で価値観を共有することが先決だからです。

現在、素材開発部の存在とその仕事内容を知っている社員は、本社の中でも一部かもしれません。私たちが開発しているのは、今すぐに売れる短期的な商品ではなく、今後の社会の変化に対応して会社が変わって行く事を踏まえた、長期的な視線の先にあるものです。そのことを、販売部門や広告宣伝部門、EC部門にも、同じ目線で理解してもらわなければ、いくらいいものを作ったと思っていても売れる物にはならないわけです。実際に売ってくれるのは営業メンバーであり、売ろうと動いてくれるのは広告宣伝メンバーですからね。

──なるほど。

辻:「何でいいものを作っているのに売ってくれないんだ」と相手を責めてもそれは不毛です。彼らは数字を上げることが仕事であり、彼らが売上を立ててくれているからこそ、私たちは研究費用を得られるわけですから。売り手である販売部隊と、新たな商品を開発する研究開発部隊は企業の両輪です。企業として成長を続けるためには、両者が互いにリスペクトをし、両輪として動き続けることが大切だといえますね。

──こうした背景があるなかで、辻さんが今一緒に働きたいと思われる人の素質についてお聞きしたいのですが。

辻:前に述べたことと関係してきますが、研究だけができる人ではなく、技術やサイエンスを理解した上で、他部門を巻き込める力がある人、コミュニケーション能力に秀でている人が必要ですね。

吉野家の営業は、「新しい商品が出たんですよ!」と新しい商品をお客様に勧めることを押し売りのような行為であると捉えてしまいがちな部分があります。求められたものを黙って素早く提供することを是とする文化が根付いているんです。でも、「実はいいもの」は、こちら側からアピールしなければお客様に知ってもらえません。知ってもらえないと、売上にも繋がらない。そのため、まずは社員が「これはいいものだ。知ってもらいたい」と思えることが重要なんです。

ただ、だからといって素材開発部が「これはすごくいいものなんです!」と一方的に強くアピールしても、販売側は「売りにくい商品だなあ」とか「難しくて売れそうも無いな」と内心思っているということは良くあることです。自分が良いと思わないものを人に奨められるはずがないですから。それには、販売側とお客様のニーズを共有化し、商品の特性の理解をしてもらう必要があります。だからこそ、互いの立場を慮りながらコミュニケーションを取れる力が重要だと考えています。

──吉野家の顧客の健康志向についてはどのように捉えていますか?

辻:実は高い健康志向を持つお客様も多いことが最近わかってきているんですよ。2019年の3月に「超特盛」や「小盛」という商品を販売開始した際、発売当初は話題性もあって「超特盛」が大々的に売れたんですが、「小盛」が、徐々に販売数を伸ばし、今では累計販売数で「小盛」の方が上回っているんです。顧客データを分析したところ、女性客の増加に加え、男性客も多数注文している事がわかりました。つまり、ヘルシー志向の増加はあながち的外れではないといえるでしょう。このことがもっと現場に浸透していけばいいなと思っていますが、まだまだ時間を要するでしょうね。

──最後に、求職者の方にメッセージをお願いします。

 

辻:新しいものの開発は、すぐには価値を理解してもらいにくい側面があります。そのため、「正しいことをしているのに」とネガティブに捉えるのではなく、「いつか理解してもらえるために」と粘り強く取り組める人、「みんな応援してくれている」と受け取る楽天家の人が務まりやすい仕事だといえるでしょう。

「評価されるべきだ」と独りよがりになるのではなく、「世の中のこの課題を、いつかこの商品が解決できる日が来る」と信じられる人であれば、売上にも繋がる成果が出せるのではないでしょうか。

贅沢を言えば、業界で顔が広く、社外とのコラボを企画したり、アカデミアにも顔が利けばなおよいと思いますね。

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