代表取締役
馬渕 浩幸さん
タンパク質の解析技術・プロテオミクスに、現代の技術であるAIを融合させたAIプロテオミクスというサービスを社会実装として広めているaiwell社。
プロテオミクスの技術を社会実装するためには大きなハードルとなっていた時間・人・費用の難題を同社技術顧問、並びに東工大副学長である林教授の世界的特許技術によりプロテオミクスの標準化に成功し、AIプロテオミクスを様々なビジネスへ展開しています。
難題と言われていたプロテオミクスの標準化と社会実装を着実に進めている注目のバイオベンチャーであるaiwell社を創設した馬渕さんに、aiwell社の成り立ちから、これからの展望、そしてこれからのAIプロテオミクスの可能性を共に広げていくメンバーに対しての思いを伺いしました。
本当の健康管理には欠陥を直接的に、瞬時に発見出来る、そんな技術が必要だと感じたときに出会ったのが「プロテオミクス」だった
──どういった経緯、思いでaiwell社の設立に至ったのでしょうか?
馬渕さん(以下、馬渕):当社は東京工業大学発ベンチャー称号認定企業になります。
同大学内には生命理工学院といった生物学に対する専門的な分野の学部あり、非常に多くの素晴らしい技術が生まれています。それを大学と一緒にバイオテックを世に出していこうと企画をし、立ち上げたのがaiwellという会社です。
まず、私がプロテオミクスと出会ったのはaiwell設立前にスポーツ選手の健康状態を管理するクラウドサービスの会社を立ち上げていた時です。
当時、トップスポーツの健康管理の現場はまだまだ課題が山積みのような状態でした。日々の健康管理をメモする習慣はあっても、あくまでもメモだったり、記憶だったりしていたんです。
ところが、トップアスリートになればなるほど、周囲には医師や管理栄養士などたくさんの指導者がチームとしている中で、情報共有がスムーズにできない。そんな状況を変えたいと、食事の内容やどんな日常生活をしているかといったことをスマートフォンのアプリケーションに記憶することで、スムーズに状況共有ができる、そのようなものを作っていました。
その中で新たに感じたことは、アスリートであっても健康に対しては、何かあったら対処療法で直すしかないということです。
そこで私が思ったことが、もっと簡便に検査やモニタリングが出来る、人間の欠陥を直接的に、瞬時に発見出来る、そんな技術が世の中にないと本当の健康管理は出来ない、と思っていました。
その時に出会ったのが、プロテオミクスという考え方です。
タンパク質を網羅的に「見える化」し、一度にたくさんのタンパク質を比較することが出来れば、生体の「今」の健康状態が分かるはずだ、という理論です。プロテオミクスは素晴らしい技術ですが、しかし大きな問題もありました。
それは、このタンパク質を網羅的に「見える化」するための“画像を作る”ということが非常に難しかったということです。
例えば、血液からとられるような微量なタンパク質を画像に起こしていくのですが、とても時間がかかり画像が均一に作れない。また、再現性が伴わない。同じ血液からまた2枚目を作ろうと思ったら、全然違う絵が出来ちゃうような、それほど高度な技術が必要でした。
今まではどのようにやっていたかというと、すごく大きな研究現場で沢山の研究員を抱えて人海戦術で対応していました。そのためプロテオミクスというのは実は限られた人々の技術だったのです。
例えば製薬企業などの何十億円という大規模予算の研究現場、こういったところでしか使えなかった。
故に可能性を秘めた素晴らしい技術だけれども、手軽には出来る研究技術ではなかったのです。
それでもプロテオミクスを何とかもっと使えるようにというのは、生物界の皆さん同じ思いがあって、この大きな問題を解決したのが、当社の技術顧問である東工大副学長である林教授のプロトコルです。
プロテオミクスの標準化、非常に短時間で感度が高く再現性豊かなものを簡便に作れる技術を開発したことにより、世界特許技術として様々なビジネスへ展開できるようになってきました。
このプロテオミクスの標準化、簡便な技術にしたことにより、費用も従来に比べてかなり安価になりました。加えて画像精度が非常に鮮明で高いので、AIなどの機械での比較が可能になったところが1つのミソになっています。なので、当社はプロテオミクスという表記の中でAIを頭文字につけてAIプロテオミクスという商標をとってサービスに転換しています。
──プロテオミクスで事業をやっていこうと舵をとった決め手は何でしょうか?
馬渕:そこは明確に2つあります。
1つはプロテオミクス自体が新しい技術ではなく、従来から生物界が唱えていた考え方ということです。
これは疑いの余地がないので、プロテオミクスの説明をすると「タンパク質でそんなこと分かるのですか」と、バイオ業界に詳しい方でも驚かれることがあります。
それぐらいタンパク質の解析は、日本では知名度がなかったりするのですが、生物界ではタンパク質を解析すれば全てがわかるというのが、普遍的な理論なんですよね。なのでこれが事業としては大成するだろうと思いました。
2つ目は、大成する裏付けとなったのがやはり東工大・林の技術です。彼の考え、プロトコルであれば、今までできなかったタンパク質の網羅的な解析、比較検証っていうのが非常に簡便に出来るというのを目の当たりにしたので、これはもう社会実装レベルの発明研究だなっていう風に捉えて、事業化しても問題ないんじゃないかとキックオフしました。
──プロテオミクスの研究事態は終了しているが、実用化されていなかったということですね。
馬渕:そうです。すでに研究は終了していて、当社は研究をやっているわけではないのです。
様々な生物学を取り入れた研究をしたいと思っている企業にサービスとして紹介するのが当社のビジネスです。どれも社会実装に達しているものなので、研究ではなく、当社のサービスですね。
そのため今後入社してくる方々には、研究を世のために使ってもらってこそ、初めて研究成果と言えるんだ、という人に集まって頂きたいという思いですね。
病気やケガ、精神状態まで可視化できる時代が来ている
──今、サービスとして実際に社会実装が進んでいるプロダクトは何でしょうか?
馬渕:代替商品のアプローチですね。
一度にたくさんのタンパク質を網羅的に見ることができるようになったことで、生体、つまり人間や動物、植物などが今どのような状態なのか分かるようになってきています。生きているもの全てがタンパク質で構成されていますので、野菜とか木の葉っぱとか、こういったものもタンパク質を見ればその個体の状態は分かります。
そこで、例えば動物や競走馬、こういったところの健康管理はもちろん、植物で作れるような代替食品の開発も進んでいます。
植物も生き物ですので、それをどのように加工してどのように味付けをすれば最も適した代替食品になるのか、こういった食品へのアプローチというのも既に展開が始まっています。
例えば粉ミルクの品質改良で母乳に近づけたいといった場合、この成分は全て天然由来のものがほとんどですので、母乳と粉ミルクのプロテオミクスの画像を作って照らし合わせ、粉ミルクをより母乳に近づけるような、そんなアプローチも当社の中では既に開発が完了しているというものです。
あらゆるもの、特に食品なんかは全部元をただすと生き物ですから。動物であったり植物だったりするので、こういったものの品質改良であるとか適切な調理方法、こういったものまでも全てプロテオミクスで編み出すことが可能になっているのです。
タンパク質の可能性は非常に大きいということですね。
──これからより注力していきたいことは何でしょうか?
馬渕:プロテオミクスが最大限の可能性であるヒトや動物、植物の病気や怪我の予兆発見、つまり一次スクリーニングのところに注力をしていきたいと思っています。
実際に健康診断や血液検査をすると血液を採ると思いますが、こういったものからタンパク質をいただいて当社の技術をもって画像に擬人化するようなことを行います。
これも当社で蓄積した病気や怪我を蓄積したデータベースとAIが比較検証することで、瞬時に皆さんの心身の健康状態を解明するような、そんな未来型の一次スクリーニングサービスの開発に着手しています。
日常生活の生活習慣を改善する、例えば運動してみましょうとか、毎日のお酒は止めてみるとか、食事に気を付けてみるといった、日常生活の生活習慣を改善する、こういった日頃のケアで病気や怪我を未然に防ぐことができる。発症せずに防ぐような、健康が持続する社会を実現するっていうのが、当社の最終ゴールだと思っています。
皆さんに使ってもらってこその研究成果
──AIプロテオミクスの目指す未来とは?
馬渕:代替商品など、プロテオミクスの技術を様々な業種で実装していくことはもちろんですが、やはり展望としては、一次スクリーニングを達成してあらゆる生活習慣病を含む病気や怪我を早期に防ぐようなサービスを確立するっていうのが僕らの使命だと思っています。
──求職者の方へメッセージをお願いします。
馬渕:研究成果というのは世の中のためになるものだと思っていて、皆さんに使ってもらって始めて研究成果だと言えるような研究者の方々、またリサーチのメンバーにきていただきたいです。
RDサポートさんのご協力もあって、今いる研究の現場の人間はほぼ100%そういった方々がきています。なので自分の趣味や考え方の中で満足する研究を達成するのではなく、どうやったら皆さんの生活が豊かになるのか、どうやったらこの研究が皆さんの現場で使ってもらえるのか、これを1つの目標にしてもらっています。
研究者であればこの画像を作るというところが1つ目的になっているところもあるのですが、じゃあその画像を作って比較検証することで何が分かって、将来的にはどんなものの製品開発や商品開発、サービスに繋がるのかっていうのを想像したいとか、やってみたいと思える人が当社では活躍できると思いますし、ぜひきていただきたいなと思っています。