医療機器薬事の仕事内容とは?国内外の申請実務から年収まで
- 公開日:2026/11/05 更新日:2026/11/05
医療機器メーカーの品質保証(QA)で経験を積むなかで、「品質を守るだけでなく、製品を世に出す段階から関わりたい」と薬事(RA:Regulatory Affairs)に興味を持つ方は少なくありません。
一方、求人票には「医療機器の薬事申請」「PMDA対応」などとしか書かれておらず、実際の仕事やQAとの違いが見えにくいこともあります。
医療機器は、薬機法のもとで開発、承認、製造、流通、使用、市販後安全対策まで規制されており、製品によってはPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の審査を経て市場に出ます。薬事は、この規制と製品開発をつなぐ重要な役割です。
この記事では、医療機器薬事の具体的な仕事内容から、国内・海外薬事の違い、求められるスキル、年収、QAから薬事へキャリアチェンジする方法まで解説します。
医療機器薬事(RA)とは?役割と医薬品薬事との違い
医療機器薬事のミッションと重要性
医療機器薬事のミッションは、単に「申請書類を作ること」ではありません。
製品の特性やリスク、開発状況を把握したうえで、「どの規制が適用され、どのようなデータを準備し、どのルートで申請すれば市場に出せるか」を整理し、社内と規制当局をつなぐ仕事です。
例えば新製品では、
・医療機器への該当性を確認する
・一般的名称やクラス分類を確認する
・承認、認証、届出など必要な手続きを判断する
・申請に必要な試験や資料を整理する
・開発、QAなどの関係部門と申請資料を作成する
・必要に応じてPMDAへの相談を行う
・申請後の照会事項に回答する
といった業務が発生します。
PMDAには、医療機器の開発前相談、非臨床試験のプロトコル相談、臨床試験要否相談、申請資料の充足性に関する相談など、開発段階に応じた複数の相談制度があります。つまり薬事は完成した資料を「提出する人」ではなく、開発途中から承認取得までの道筋を設計する役割も担っています。
医薬品薬事との違い(製品サイクル・多様な分類・SaMDなど)
医療機器薬事と医薬品薬事は、どちらも製品の有効性・安全性・品質を規制に沿って説明し、市場へ届ける役割を担います。一方で、扱う製品の性質や、申請に必要な資料・手続きには違いがあります。
医薬品では、有効成分の作用や用法・用量などを踏まえ、有効性や安全性を評価します。これに対し医療機器は、メスのような器具からMRI、ペースメーカー、プログラム医療機器(SaMD)まで、製品の仕組みや使い方が多様です。そのため薬事担当者には、担当製品の技術的な特徴を理解し、性能や安全性をどのような試験・資料で示すかを整理する力が求められます。
また、医療機器はリスクに応じてクラスI~IVに分類され、製品によって届出・認証・承認などの手続きが異なります。まず「この製品はどの分類に当たり、どの手続きが必要か」を見極めることが、薬事業務の出発点になります。
市販後の変更管理は医薬品でも必要ですが、医療機器ではサイズや構成品の変更、性能の改良、ソフトウェアの更新など、製品の改善に伴う対応が継続的に発生します。こうした変更が承認・認証内容に与える影響を判断し、必要な手続きにつなげることも、医療機器薬事の重要な仕事です。
医療機器薬事の具体的な仕事内容
医療機器のクラス分類(クラスI〜IV)と必要な申請手続き
日本の医療機器は、不具合が起きた際の人体へのリスクなどを踏まえ、クラスI~IVに分類されています。
大まかな考え方は次の通りです。
・クラスI:一般医療機器。人体へのリスクが極めて低いもの
・クラスII:管理医療機器。人体へのリスクが比較的低いもの
・クラスIII:高度管理医療機器。人体へのリスクが比較的高いもの
・クラスIV:高度管理医療機器。生命への影響につながる可能性があるもの
例えば厚生労働省の資料では、クラスIとして鋼製小物など、クラスIIとしてMRIや超音波診断装置、クラスIIIとして透析器や人工呼吸器、クラスIVとしてペースメーカーや人工心臓弁などが例示されています。
手続きも一律ではありません。クラスIは基本的に届出ですが、クラスII以上については品目や基準によって第三者認証または大臣承認などになります。したがって、「クラスII=すべて認証」と単純には判断できません。製品ごとの一般的名称や認証基準などを確認する必要があります。
開発段階から承認取得までの薬事戦略・申請業務(PMDA対応・照会対応)
承認が必要な医療機器の場合、薬事担当者はR&D(研究開発)などと連携しながら、申請に必要となる品質、性能、安全性、臨床評価などの資料を整えます。
実務では、
・製品コンセプトと使用目的の確認
・一般的名称、クラス分類、申請区分の検討
・既存品や承認基準などの調査
・必要な評価データと試験計画の整理
・PMDA相談資料の作成
・承認申請資料の取りまとめ
・申請後の照会事項への回答
などを進めます。
開発がほぼ完了してから薬事要件との不整合が判明すると、追加試験や設計変更が必要になることがあります。そのため、早い段階から薬事担当が製品開発へ入り、申請に必要なエビデンスを逆算して考えることが重要です。
市販後薬事業務(設計・仕様変更に伴う一変・軽微変更申請、添付文書改訂)
薬事の仕事は上市後も続きます。
例えば設計変更、原材料・製造方法・製造所などの変更が発生すれば、薬事担当者は承認・認証内容への影響を確認し、必要に応じて一部変更承認申請(一変)や軽微変更届などの対応を行います。PMDAでは一変・軽微変更の考え方を明確化し、個別に事前確認できる仕組みも用意しています。
社内連携(R&D・品質保証・安全管理部門との役割分担)
薬事は単独で完結する仕事ではありません。
・R&D:製品設計、仕様決定、性能評価、技術文書作成
・QA:QMS、製造・品質プロセス、変更管理、監査など
・安全管理:市販後の不具合・安全性情報の収集と対応
・薬事:規制要求の判断、申請戦略、当局対応、申請資料全体の整合性確保
実際の役割分担は会社の規模や組織体制によって異なります。QA経験者にとって特に大きな強みになるのが、「変更が品質システム・製品リスク・承認事項へどう影響するか」を考える習慣です。
国内薬事と海外薬事の実務の違い
国内薬事と海外薬事は、どちらも対象市場の規制を確認し、必要な資料を整え、製品の市場導入や市販後の変更に対応する仕事です。主な違いは、対応する国・地域の規制と、申請に向けて調整する相手にあります。
国内薬事の実務:日本の規制に沿った申請・当局対応
国内薬事は、日本市場で製品を販売するために、薬機法などに基づく手続きを進めます。製品のクラス分類や申請区分を確認し、社内の開発・品質保証部門などと資料を整え、PMDAや認証機関への申請・相談、照会事項への回答を行います。
承認・認証後も、製品の変更に伴う手続きや、表示・添付文書等の確認を担当します。日本の規制要求を正しく理解し、製品の技術情報を申請資料にまとめ、当局や認証機関へ説明する力が重要です。
なお、保険適用に関する業務は、薬事が担当する企業もあれば、マーケットアクセス等の別部門が担当する企業もあります。
海外薬事の実務:国・地域ごとの規制対応と現地関係者との調整
海外薬事は、海外市場で製品を販売するために、対象国・地域の規制に沿った手続きを進めます。例えば、米国ではFDAの510(k)・De Novo・PMAなどの経路を検討し、欧州ではMDRに基づく適合性評価やCEマークへの対応を進めます。
実務では、対象市場で必要な試験・資料を確認し、社内の開発・品質保証部門に加え、現地法人や代理店、申請支援会社などと連携して準備を進めます。日本向けの資料をそのまま使えるとは限らないため、各国の要求との差を整理し、追加データや文書の整備につなげることが重要です。
国内薬事と比べ、複数市場の制度や規制改正を把握し、現地関係者と調整する機会が多くなります。そのため、規制を読み解く力に加え、英文技術資料の確認や、英語での説明・調整に対応する力も求められます。
外資系メーカーの国内薬事:海外本社と日本の規制をつなぐ役割
外資系メーカーで働く場合も、日本市場向けの申請を担う仕事は国内薬事に当たります。海外本社から製品の技術資料や試験データを収集し、日本の規制要求を満たす資料へまとめることが主な役割です。
海外で販売されている製品でも、日本で必要な資料がそろっているとは限りません。不足する情報を本社へ説明し、追加資料の提供や対応時期を調整するなど、日本の規制と海外側の開発・販売計画をつなぐ力が求められます。
また、海外メーカーの日本参入を支える仕組みの一つに、DMAH(選任製造販売業者)があります。こうした立場で薬事を担う場合も、海外メーカーと連携しながら、日本で必要な申請や市販後の対応を進めます。
医療機器薬事の平均年収とキャリアパス
医療機器薬事の年収は、担当製品や業務範囲、申請経験、英語力、マネジメント経験などによって異なります。薬事職に限定した公的な賃金統計は乏しいため、ここではRD REALIZEで取り扱う求人をもとに、年収の目安をご紹介します。
医療機器薬事の求人は、年収500万円台~700万円台が中心です。一方、薬事戦略の立案やPMDA対応、高度管理医療機器の承認申請などを担うポジションでは、900万円以上の求人も見られます。薬事マネージャーやリーダークラス、海外薬事担当では、1,000万円を超える求人もあります。
企業が評価するのは、経験年数だけではありません。どのような製品を担当し、申請や関係部門との調整をどこまで主体的に進めてきたかも、年収を左右するポイントです。具体的には、次のような経験が評価につながります。
・国内の承認申請を主体的に進めた経験
・クラスIII・IVなど高リスク製品の薬事経験
・PMDAとの相談や照会事項への対応経験
・FDA、EU MDRなどの海外規制への対応経験
・英語で海外チームと交渉・調整した経験
・品質保証や安全管理など、関係部門と連携した経験
・チームのマネジメント経験
年収相場は一つの目安です。転職を考える際は、金額に加えて、自分の経験が応募先のどの業務で評価されるかを確認すると、希望年収の根拠や、今後積みたい経験を整理しやすくなります。
年収・待遇を比較する際のポイント
医療機器薬事の転職では、内資系・外資系という区分だけで年収や働き方を判断せず、個々の企業の条件を確認することが大切です。同じ年収額でも、基本給と賞与の構成や、任される業務範囲によって待遇の受け止め方は変わります。
求人を比較する際は、提示年収に加えて、次の点も確認しましょう。
・給与:基本給と賞与の内訳、賞与の変動幅、固定残業代の有無と対象時間
・働き方:実際の残業時間、在宅勤務やフレックス制度の利用状況
・業務負荷:担当製品数や申請案件数、チーム内の役割分担
・教育体制:入社後の研修やOJT、未経験業務へのサポート
・キャリア:海外薬事やマネジメントなど、希望する経験を積めるか
特にQAから薬事へ転職する場合は、教育体制と担当業務の確認が重要です。これまでの経験を生かせる業務と、入社後に習得する業務を具体的に把握しておくと、待遇だけでなく、無理なく専門性を広げられる環境かどうかも判断しやすくなります。
医療機器薬事の人材需要と将来性
近年のRD REALIZEの求人動向を見ると、企業が求める人材像は大きく変化しています。従来は承認申請業務が中心でしたが、最近では開発・品質保証・安全管理・事業部門と連携しながら、薬事面から製品開発を推進できる人材へのニーズが高まっています。具体的にはSaMD、AI画像診断支援、手術支援ロボット、ゲノム医療などで求人需要が拡大しています。これらの領域では、薬機法への理解だけでなく、ソフトウェアやAI、臨床開発、海外規制に関する知識も求められるケースが増えています。
RD REALIZEが取り扱う求人では、薬事単独の経験者よりも、
・薬事+品質保証(QA)
・薬事+安全管理(GVP)
・薬事+海外規制対応
・薬事+プロジェクトマネジメント
といった複数領域にまたがる経験を持つ人材が高く評価される傾向があります。今後キャリアアップを目指すのであれば、承認申請スキルに加え、薬事戦略立案やPMDA対応、海外薬事、品質システム(QMS・ISO13485)などの経験を広げていくことが、市場価値向上につながるでしょう。
医療機器薬事に求められるスキルと向いている人
法規制・規格に関する理解(薬機法、ISO 13485など)
医療機器薬事では、薬機法や品質管理に関する規格であるISO 13485など、担当製品に関わるルールを理解することが大切です。クラス分類や申請手続き、製品変更時の対応などについて、必要な情報を調べ、業務に生かす力が求められます。
細かな条件や根拠を丁寧に確認できる人、規制の改正や新しい知識を継続して学べる人に向いています。QAで培ったQMSや変更管理の知識も、薬事業務を理解する土台になります。
技術的理解力と論理的ドキュメンテーション能力
担当する医療機器の仕組みや性能、安全性を理解し、根拠となるデータとともに分かりやすく文書にまとめる力が必要です。専門的な情報を整理し、読み手に筋道立てて伝えることが求められます。
製品の仕組みに関心がある人や、情報を比較・整理し、根拠をもとに説明することが得意な人は、その強みを生かせます。設計開発やQAで技術資料を作成・確認した経験も役立ちます。
規制当局や海外拠点との折衝力・英語力
薬事は、開発・品質保証などの社内部門や、規制当局、海外拠点と連携して進める仕事です。相手の説明を正しく理解し、必要な情報や対応を具体的に伝え、調整する力が求められます。
立場の異なる人の意見を聞き、共通の目的に向けて粘り強く調整できる人に向いています。また、海外薬事や輸入製品を扱う業務では、英文資料の読解やメールでのやり取り、会議での説明など、担当業務に応じた英語力が役立ちます。
医療機器薬事への転職方法|未経験・QA等からのキャリアチェンジ
品質保証・品質管理(QA/QC)や設計開発の経験を生かせる理由
医療機器の品質保証・品質管理や設計開発で培った知識・経験は、薬事へのキャリアチェンジでも強みになります。製品の品質や安全性を確認し、根拠となる資料を整え、関係部門と調整する点で、薬事と共通する業務があるためです。
例えば、次のような経験を生かせます。
・品質保証:QMSの運用、変更管理、監査対応
・品質管理:試験・検査データの確認、規格への適合性評価
・設計開発:製品仕様の検討、性能・安全性評価、技術文書の作成
薬事未経験であっても、担当製品への理解や、データ・文書を根拠に説明する力は、申請資料の作成や照会対応を学ぶ土台になります。
薬事未経験から目指す場合の準備と求人選び
まずは、薬機法や医療機器のクラス分類、承認・認証・届出の違いなど、薬事の基礎を押さえましょう。PMDAが公開する申請様式などを見ると、申請にどのような情報が必要なのかを具体的にイメージできます。
現職で機会があれば、製品変更時の薬事確認や申請資料の準備など、薬事担当と連携する業務に関わることも有効です。海外薬事を希望する場合は、英文の規制文書や技術資料に触れ、読解力を高めておくとよいでしょう。
求人を探す際は、これまでの経験を生かせる業務があるか、薬事の実務を学べる体制があるかを確認します。同じ「薬事職」でも、新規申請と市販後の変更対応、国内薬事と海外薬事では担当業務が異なるため、仕事内容と教育・OJTの体制を具体的に確認することが大切です。
転職活動でアピールすべき経験と選考対策
職務経歴書や面接では、担当年数や業務名に加えて、何を判断し、誰と調整し、どのような役割を果たしたかを伝えましょう。
例えば「QAを7年間担当した」だけでなく、「設計変更に伴う品質への影響を評価し、開発部門や薬事部門と必要な対応を整理した」と説明すると、薬事でも生かせる経験が伝わります。実際に担当した範囲を明確にし、自分の判断や工夫を具体的に示すことがポイントです。
また、「なぜ薬事を目指すのか」「これまでの経験をどう生かしたいのか」も整理しておきましょう。製品開発の早い段階から関わりたい、規制への理解を深めて市場導入を支えたいなど、自身の経験と志望理由を結び付けると、キャリアチェンジの目的が伝わりやすくなります。
まとめ:医療機器薬事は高い専門性と市場価値を持つ中核職種
医療機器薬事は、申請書類を作成するだけの仕事ではありません。製品の技術を理解し、薬機法などの規制要求を整理し、開発・QA・安全管理などの関係部門と連携しながら、「この製品をどうすれば適切に市場へ届けられるか」を形にしていく仕事です。
特にQA経験者は、QMS、変更管理、監査、リスク管理、技術文書など、薬事につながる経験をすでに持っている可能性があります。未経験だからといって、キャリアをゼロから作り直すわけではありません。
まずはこれまでのQA経験を「薬事でどう生かせるか」という観点で棚卸しし、薬機法やクラス分類、承認・認証・届出、申請様式について理解を深めてみましょう。そのうえで、教育・OJTのある求人やQA経験を評価するポジションを選ぶことが、無理のないキャリアチェンジにつながります。
RD REALIZEでは、医療機器業界に特化したコンサルタントが、これまでの経験や今後目指したいキャリアに合わせて求人をご紹介しています。現在転職を考えている方はもちろん、将来的なキャリア形成について相談したい方も、お気軽にご登録ください。
筆者:RD REALIZE編集部